濃厚接触者の追跡

オミクロン株の感染者が急増している地方自治体では、濃厚接触者の追跡を中止するところが出ている。

保健所の業務がひっ迫しており、本当に重症化の危険がある人へのケアを行うためだという。これは当然のことだ。感染したかどうかわからない人より、目の前で今感染しているひとたちに限られた人手を重点化するのはあたりまえ。

このような地方自治体では、その代わりに感染者本人が濃厚接触者に連絡することになっている。こちらは少し問題がある。まず、濃厚接触者は、様々な状況を勘案して保健所が決めるもので、この判断を一般人に任せるには無理がある。悪用しようと思えば、「ある人にあなたは私の濃厚接触者です」と連絡すると、その人は実際は濃厚接触者でなくても接触のあったとされる日から14日間学校や会社にいけなくなる。冗談はさておき、感染者から濃厚接触者として連絡された人はどうしていいかわからない。これまでなら保健所から健康観察の期間や生活についての指示があったが、感染して苦しんでいる本人が濃厚接触者の観察をできるとは思えない。

なぜこうなっているかと推測すると、実際には濃厚接触者の判定やケアを保健所はやめたいのだが、やめるというと、もし濃厚接触者の容態が急変したときに行政が責任を問われるので、感染者から連絡してもらって一応の責任は果たしました、ということにしたいのではないだろうか。こういう済し崩し的な方法は無用の混乱を招くだけだ。スパッと濃厚接触者の判定をやめるという方針を行政は出すべきだろう。

そもそも濃厚接触者は、積極的疫学調査の中で発生する。感染拡大初期であれば感染者の行動を追跡し、どこから感染して、誰に感染させた可能性があるかを網羅し、次の感染拡大を阻止するという効果がある。しかし、現状のように市中感染が爆発的に広がっているときに、積極的疫学調査をする意味がない。疾患のある人や高齢者などリスクのある人を守るには、本人や周囲の人に定期的に抗原検査をする、または単純に体調が悪くなったらすぐ検査を受けるという体制をとればよい。たとえて言えば、マンツーマンディフェンスをしていたら相手の数や動きが数倍になって追いつけなくなったので、ゾーンディフェンスに変えるという感じ。

 

現場からも濃厚接触者の追跡に対して悲鳴のような声が上がっている。医療関係者のためにも感染者のためにも、現場の声を迅速に聴いて、後手後手にまわならい対応をしてもらいたいものだ。

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