Covid-19振り返り

2019年末頃から拡大した新型コロナ感染症スペイン風邪以来の100年に一度の世界的災害だった。この機会に新型コロナ危機について振り返っておきたい。日本では2023年5月に新型コロナは感染症法上の5類となり公式に収束(終息ではない)した。8月現在では、国内・海外旅行もコロナ前に戻り、会社の勤務体系や学校の活動も従前にもどっている。その後、感染は続いているので新型コロナ感染症が消滅したわけではないが、一時の人類が滅亡するのではないかとまで危惧された状況からは脱して、新型コロナはインフルエンザ程度の感染症として扱われるようになった。振り返ってみて、その主な要因は、①ワクチン接種や感染により新型コロナに対する抵抗力を持った人が国民の大部分になったこと、②新型コロナ自体が初期の株から変異し弱毒化したことの2つだろう。特筆すべきことは、mRNAワクチンという画期的なワクチンが早期に生産され、全国民が1年程度の間にワクチンを受けられたこと。

従来のワクチンはウィルスを無害化したものを接種していたため、該当ウィルスを卵の中などで増殖させる必要があった。しかしこれでは短期間に全人類をカバーするような生産量を確保するのは不可能に近い。一方、mRNAワクチンは、ウィルスの一部の重要断片だけを体内細胞で生成するためのmRNA設計図を接種するというワクチンであり、設計図を書き換えれば変異ウィルスにも簡単に追従できる。幅広いワクチン接種がなければ、強毒のままの新型コロナウィルスに国民の大部分が1度は感染するまで感染は続いていたと思われるので、もっと犠牲者は増え、社会生活は停滞し、旅行業や飲食業を含め社会全体にもっと大きなダメージを与えただろう。あまり顧みられていないが、コロナ禍の期間に中学生、高校生、大学生が部活や修学旅行など制限され、自宅からオンラインでの授業を受け続けるなど、本来人生の中でも最も輝ける時期の何年かを失ってしまったことも社会的に大きな損失だ。

少し脱線するが、今回の新型コロナ禍を振り返って感じるのは、マスコミと感染症の相性の悪さだ。マスコミが悪いということではないのだが、マスコミというのは、特殊な例外事象を探しあててそこにスポットライトを当てることを性としている。犬が人間を噛んでも大きなニュースにならないが、人間が犬を噛むをニュースになる、というやつだ。感染症は、確率的な現象なので、同じウィルスでも感染して亡くなるかたもいるし、全く軽傷で終わる人もいる。マスコミは、確率的な側面を考慮せず、特殊なセンセーショナルのケースだけを報道する。例えば、ワクチンであるのでいくら安全性を検証してから開発しても、非常に稀にワクチンによるアナフィラキシーショックなど重篤な症状を起こす方はいる。そのようなケースが起きれば、そのことを報道するのがマスコミの役割ではあるが、確率的な現象であるので、効果とリスクの確率的バランスを考えた「期待値」についても報道しなければならないのに、どうしても例外的な特殊なことだけをとりあげ、それが多発しているかのような取り上げ方をしてしまう。

未だに、感染数の増加をだけを取り上げて警鐘を鳴らしている報道も見かける。感染者数が増えていても、実際に病床はひっ迫していないし病院も混雑してない、重症者数・死者数も増えていないといった都合が悪い点には触れない。病院のひっ迫に関しても、数ある病院の中で、一番病床がひっ迫している1次対応病院を選んで取材し、危機的な状況を訴える報道をする。でも実際は他の病院はまだ病床が空いている。NHKのサイトで病床のひっ迫状況を定期的にチェックしている国民にはウソだとわかるが、報道だけみると確かに病床がひっ迫していると信じてしまう。その病院は確かに大変な状況にあるので、そこの医者に現状について話してもらえば、全員が「病床は危機的状況で、国民は感染防止に気をつけて、国も感染防止策が必要だ」という旨のことを話す。自民党の本部に行って、自民党の支持率をカウントしているのとあまり変わらない。確率的思考ができていない。この場合は、特定の特殊な病院を探すのではなく、全病院を調査して病床のひっ迫状況の推移から今後を推移を推定するような報道が必要だった。

また、マスコミは文系出身者が主体のため、科学的・医学的知識が不足した状態で理解したことを報道しがちだ。たとえば、一番ひどかったのは、「ワクチンは病状を抑える効果はあるが、感染を防ぐ効果はない」というデマをちょくちょく報道している番組があった。ワクチンに関する当時の最新の論文を読めばわかることだが、早い段階でワクチンには感染予防効果もあることが専門分野の査読付き学術論文として発表されていた。査読付きであるので、その分野の権威ある審査を通っているため、その内容が理解できない素人が統計の取り方がオカシイから信じられないと言っても意味がない。確かに、ワクチンが出た当初は、ワクチン接種者の数が少なく感染予防効果が判定できず、発症予防効果しか確定できていなかったが、その後接種の広がりとともに、感染予防効果も証明されていた。そのあたりは、ちゃんと最新の情報を勉強している専門家の裏付けをとるのがジャーナリズムのはずなのだが。

 

だいぶん脱線したので話を元に戻す。時系列的に振り返ってみると、今回のコロナ禍は以下のように進行した。

  • 2019年11月頃 中国武漢で致死率の高い呼吸器系感染症が広がる。
  • 2020年1月 武漢でロックダウン。医療施設の建設。WHOがコロナウィルスと認識。

この頃、まだ日本では新型コロナウィルスが世界的な危機的になるとはあまり思われていなかった。以前のSERSのように封じ込めも可能ではと思われていた。

  • 2020年2月 新型コロナウィルスを感染症法上の2類相当(と言っているが実際は1類準用)に指定。2/3に横浜でダイヤモンドプリンセス号の検疫。2月ぐらいから、国内でも屋形船などのクラスターの発生が確認される。コロナ感染による死者も発生。深刻なマスク不足。市中での感染者がみつかり始める。この頃の新型コロナウィルス(武漢株)は肺に重篤な感染を起こし致死率が10%前後。
  • 2020年2月27日 安倍首相が全国の学校に一斉休校を要請。春休みを前倒しして、3/2から学校が臨時休校。
  • 2020年3月 3/5の新型コロナウイルス感染症対策本部による「水際対策の抜本的強化に向けた新たな措置」に基づき、日本入国時の検疫が開始となり、指定国からの入国者(日本人を含む)は14日間の隔離が要請される。一部の国のビザ免除が停止。3/21以降は、シェンゲン加盟国からの入国者のビザ停止と隔離。3/26以降はアメリカからの入国者も隔離。入国後14日間は公共交通機関の利用自粛を要請。
  • 2020年3月 世界各地の都市でロックダウンが実施される。
  • 2020年3月 各種学会がオンラインに。ここでZoomのスケーラビリティと安定性が実地で検証され、その後の学校のオンライン授業やオンライン勤務への移行に貢献した。オンライン飲み会も行われる。3/29志村けんさんコロナ感染により逝去。選抜高校野球などスポーツの大会中止。東京オリンピック2020の延期も決定。
  • 2020年4月 新学期ではあるが、学校の授業開始は5月以降に延期。授業をオンラインや自宅学習による授業に切り替えるための準備を急遽行われる。4/7 新型コロナウィルス感染症緊急事態宣言(4/7-5/6)。緊急事態宣言を受けた具体的施策は都道府県知事の権限。インフラ業種以外には休業要請。自治体による休業協力金の検討開始。リモートワークが開始。コンサートや演劇などの文化活動のプロ活動に支障。
  • 2020年3月・4月は、日本国中(および世界全体)で人の活動が止まり、とても不安な時期だった。イタリアやアメリカなど海外での感染爆発のニュースも不安を掻き立てた。ただ、日本では海外ほどの感染爆発は起きていない。ひとつには、日本がもともとあまり人と接近して接触する文化ではないことと、家では靴を脱ぐ・毎日風呂に入るなど清潔を好むことと*1、花粉症でマスクをしている人が多く飛沫感染を防げたことなどが考えられる。この頃の武漢株は、感染すると重篤な肺炎を引き起こすが、感染力はそれほど強くなかった。そのため、日本的な特性が感染防止に効果があった。その後、オミクロンのような感染力の極端に強い変異種になると、電車やバスの中でマスクをしていても感染するため、日本が最終的には世界最大の感染者数を記録した。
  • 2020年5月 緊急事態宣言を5月末まで延長。5/20夏の甲子園高校野球大会中止決定。大学の授業はリモートで実施。小中高は在宅学習中心。
  • 2020年6月 感染状況が落ち着いてきたことから学校再開。分散登校や短縮授業。給食時は黙食。部活の自粛や対外試合・大会が中止に。大人が飲食店で会食をしているのに、学生は部活ができないというのは納得できないという在校生の声。
  • 2020年8月 夏休みの早期終了。一部の学校ではお盆明けから授業開始。
  • 2020年9月 多くの学校で文化祭中止(またはオンライン開催)、修学旅行の中止や行先変更(県内など)、オンライン学習に。運動会も中止に。アルファ株が英国で検出される。お祭りなどの地域行事の中止。
  • 2020年10月 デルタ株がインドで検出される。デルタ株は、武漢株より感染力(基本再生産数)が2倍ぐらい高く、入院リスクも高い。
  • 2021年2月 医療従事者などにデルタ株を対象にしたワクチン接種開始。-20度での保管が必要なため、国民全体への接種のためにはロジスティクスの構築が必要。
  • 2021年4月 多くの大学も通常の授業に戻る。
  • 2021年5月 一部都府県に緊急事態宣言。菅首相がワクチン1日100万本実施を宣言。
  • 2021年6月 高齢者から順に一般国民へのワクチン接種拡大
  • 2021年7月 東京オリンピック2020開催。バブル方式による一般との隔離。
  • 2021年8月 デルタ株の感染者数がピークに。抗体カクテル療法が承認され治療への道が開かれる。ワクチンの2回目接種も進み、高齢者の90%、一般の50%程度が8月末までに2回目接種し、多くの国民がコロナに対する免疫を獲得。
  • 2021年8月 イギリスはワクチン接種者に対して入国時の隔離措置を免除。ヨーロッパ内で国を跨ぐ人の移動も活発に。

この頃は、ワクチン接種も進み、治療薬も承認され始めたことから、新型コロナウィルスの克服の兆しが見えてきた。西欧諸国では、コロナ対応を大幅に緩和し始める。イギリスでは、ワクチン接種者に限って野外フェスへの参加も認められる。海外への渡航もビザを取得すれば可能になってきている。ただし、帰国後14日間の隔離が必要なためビジネスや観光旅行は一般にはできない。海外赴任や留学などは限定的に再開される。

  • 2021年9月 ミュー株について盛んに報道されるがその後感染拡大はない。デルタ株の感染力(基本再生産数8程度)であれば、ワクチンで抑え込める見込み。感染者数減少。
  • 2021年10,11月 ワクチンの効果で、この時点ではコロナ禍はほぼ収束と思われた。が、その後オミクロン株が拡大。
  • 2022年1月 オミクロン株の感染拡大。オミクロン株はデルタ株からの変異が大きく、デルタ株ワクチンにより獲得した免疫があまり効かない。ただし、感染拡大の震源地である南アフリカの臨床の現場からは弱毒化したという報告があるも日本では不安視する報道ばかりがNHKを含め多数。深層報道バンキシャという番組はいち早く桝太一が現地南アフリカの医師にオンラインでインタビューし、真の現状を伝えていた。後から考えると、オミクロン株は一部でささやかれていたように天然のワクチンとなった。感染することで新型コロナ全体に対する免疫を得ることができる。
  • 2022年3月 オミクロンBA.2の感染者数がピークに。海外からの日本へのビザに基づく入国を再開。ただし、ビザ取得のためには日本内に責任を持って受け入れる企業や大学が必要。旅行目的も観光は不可。
  • 2022年4月 アメリカでは、コロナ対策はほぼ終了しマスクの着用義務緩和。
  • 2022年6月 オミクロンBA.5の感染者数がピークに。アメリカ入国時はワクチン接種証明により隔離措置なし。一方、日本帰国時のPCR検査等による厳密な陰性証明は継続、海外出張の大きな足かせになる。

この時点で、日本でも新型コロナを政治決断により5類に移行させても何も問題なかったと思われるが、国民の漠然とした不安感がまだあり慎重論に支配されていた。水際対策も継続されていたが、国内で感染が拡大しているときに水際対策をする意義はほとんどない。航空機内は空気の換気が早く、あまり機内での感染は起きていない。

  • 2022年10月 ワクチン接種者は日本入国72時間前のPCR検査不要に。
  • 2023年4月 マスクの着用は個人判断に。
  • 2023年5月 新型コロナを感染症法上の5類に変更。これに伴い、新型コロナに関する政府の対策本部も解散。事実上の新型コロナの収束宣言。

最後にコロナ禍を通して、新たに得られた知見は以下の通り。

  1. 日本は個人病院の病床が多く、感染症に対応できないところが多いことが明らかになった。今後の万が一に備えて、感染症のための病床確保を国の指示により行なえるように法改正が必要。例えば、個人病院であっても感染症を診断できるように陰圧機能や感染者とそれ以外の患者の動線の分離ができることを開院の条件にするなど。
  2. ディジタルトランスフォーメーションの重要性が認識された。リモートワークも認められていない会社が多かったが、正式な勤務制度として導入され、これまで紙と印鑑で行われていた事務処理がオンライン決裁に変わった。オンライン授業やオンラインミーティングのメリットも社内や学校内で共有された。
  3. 日本はすべて自粛要請ベースで進めたが、本当に重篤感染症の場合は、逮捕を含む強力なロックダウンが法律上できないのは国を守るという観点からは危険。ロックダウンはしないに越したことはないが、万一に備えてロックダウンの法整備が必要。
  4. 従来から欧米の医療関係者は、マスクには感染予防効果はないという共通認識があった。コロナ禍を経て、マスクには感染力の低い株では効果があることがわかり、欧米でもマスク着用が義務化されたが、その後、オミクロンのような感染力が強い変異種では実質的な効果はなく、日本でも大規模な感染拡大が起こった。マスクは、飛沫などの拡散や吸収を何%か防いでくれるが、非常に感染力の高いウィルスの場合は、マスクと顔の隙間やマスクの目を通して、十分感染する量のウィルスを体内に取り入れてしまうため、トータルとしては効果がない。例でいうと、HPが100の人が1000の攻撃を受け場合、10%ぐらい緩和しても残り900の攻撃を受けるとHPがゼロになるようなもの。焼け石に水
  5. ワクチンはマクロな感染拡大防止には絶大な効果がある。
  6. 逆に、ワクチンのない未知のウィルスが出た場合は、感染後に回復して免疫を得て生き残るしか方法はない。
  7. 自粛ベースの人流制限の感染防止効果は証明されていない。
  8. 水際対策は、船や貨物飛行機を含むすべての人流を止めて鎖国しない限り効果がない。エネルギーや食糧を海外に依存し、自動車などの輸出で国が成り立っていることを考えると、海外との完全な人流の遮断は不可能なので水際対策の効果は薄い。今回のコロナの場合、市中感染が広がってしまえば厳格な水際対策は不要。市中感染前であっても入国後の隔離措置は1週間の自宅待機程度で十分。市中感染拡大後の水際対策は不要。
  9. 学校教育を早くタブレット化して、大量の教科書・副教材を毎日学校に持っていくのをやめて、タブレット教科書で統一すること。こうしておけば、今後万一リモート授業になっても対応できる。
  10. オンライン授業の可能性が見いだされた。平常時でも、スタディサプリのような映像授業で良いように思う。なぜ、このIT時代に全国の公立学校で何千人もの教員が同じ教育課程の内容をばらばらに授業しないといけないのか。全国で授業のうまい教員が何人か各教科をオンラインで授業して、教室で教員が生徒をサポートすれば、教員は生徒のケアにもっと時間を使える。各クラスで、必要に応じて補習を行ってもいい。

※あまりに長い期間のまとめですので、書き忘れていたいことがあれば適宜追記していきますのでご了承ください。

 

*1:フランス人は毎日はシャワーを浴びない人も多いし、イギリス人の半分ぐらいはトイレの後に手を洗わない