マスクの効果

新型コロナ前は、マスクは感染症の予防に効果はないというのが医療業界の定説でした。医療従事者がN95マスクを正しく着用すれば確かに効果はあるが、一般人が適当にマスクをしても感染予防効果はないということで、コロナ前は欧米ではインフルエンザや風邪が大流行してもマスクをしている人はいませんでした。

 

コロナ後は、認識が変わって欧米でもマスク着用が推奨まはた義務付けられるようになっています。先日マスクの効果を書きましたが、あまり科学的な裏付けがなかったので、今回は論文をベースに効果を紹介します。専門的な内容なので完全にはフォローできていませんので細かい誤解はあるかもしれませんが、大筋は理解できています。以下、図は下記の論文からの引用になります。

 

www.pnas.org

この論文は2021.12.7に掲載されていますので、オミクロン前の論文になります。オミクロンは3倍ぐらいの感染力があると言われていますので、この論文で示されている時間を1/3ぐらいに短縮して結果を受け止める必要があります。

 

先に大まかな結果をアブストラクトから抜き出すと、感染者と非感染者の2人が3.0mの距離でマスクなしで2、3分間話しをすると感染リスクは90%、非感染者だけ不織布マスクをつけて1.5mの距離で話すと30分で90%の感染リスクに達する、非感染者のマスクがN95マスクであれば1時間後でも感染リスクは20%。両者が不織布マスクをつけていると1時間後の感染リスクは30%。両者がN95マスクをつけていれば1時間後の感染リスクは0.4%。

 

もう少し詳しく見ていきます。論文が考慮している設定は感染者と非感染者の2人の場合のみです。まずはマスクの性能の確認から。

 

https://www.pnas.org/content/pnas/118/49/e2110117118/F2.medium.gif

Fig. 2

 

図2は、あるひとがマスクをして呼吸するとき、粒子のサイズによって、TIL(Tottal Inward Leakage=マスクで止まらずにもれて吸入してしまう割合)を表しています。正しく着用したN95(iv)の場合は、粒子が0.3μmでもほぼもれがないが、不織布マスク(v)であれば80%近く漏れてくる。コロナのエアロゾルで想定されるサイズの2~5μmでも不織布マスクだと20%ぐらいは通過する。N95であっても正しく着用できていない(i)と不織布マスクの半分以上の漏れがある。

 

次に感染者と非感染者の2人を対象にして、時間経過と感染リスクの割合をグラフにしたものが図5です。

 

https://www.pnas.org/content/pnas/118/49/e2110117118/F5.medium.gif

Fig. 5

 

N95マスク(論文中では欧州規格のFFP2で表記)をF、不織布マスクをSで表記しています。距離1.5m。青は感染者が息をしているだけの場合、赤は感染者がしゃべっている場合。縦軸は感染リスクで、ログスケールになっていますので少し見にくいですが一番上が100%、一番下が0.001%。一番上の赤い点線はマスクをしていない場合で、ノーマスクで話せばすぐ感染することが分かります。mixed-Sは非感染者だけが不織布マスクをつけている場合で、感染者が話しているとほとんどつけてない場合と変わりません。感染者が話していなくても1時間で8%ぐらいのリスクがあります。mixed-Fは非感染者のみがN95マスクをつけている場合で、感染者が話していると1時間で10%ぐらいの感染リスクがあります。感染者が話していないとリスクは1%以下になります。mask-SSは2人とも不織布マスクをしている場合で、感染者が1時間話していると30%ぐらいの感染リスクがあり、息をしているだけでも9%ぐらいの感染リスクがあります。2人ともN95マスクをつけていれば、話をしていてもしていなくても、1時間後のリスクは1%以下です。論文では、1%以上のリスクがある場合は安全ではない(unsafe)と呼んでいる。

 

この結果を勝手に解釈すると、不織布マスクをしていても1.5m以内に咳やくしゃみをしているひとがいると、その空気の中に1分ぐらいいると感染するリスクが10%ぐらいあり、10分ぐらいいると50%ぐらい感染リスクがある(赤線のmixed-S)。ということは、満員電車で感染者がしゃべっていた場合は近くの人が感染する可能性があると考えて良い。ここでは布やフリースのマスクが出てこないが、これらは付けてないのと同じということだろう。感染者が息をしているだけでも1時間で感染リスク10%近い。感染者が不織布マスクをつけていても、会議室で1時間隣にいるだけで感染する可能性がある。まして感染者が布やフリースのマスクの場合は自分が不織布マスクをつけていても1分でも危険。

 

一方、N95マスクをつけていれば、かなりリスクは減る。相手が近くで話していなければ、ほぼ感染しない。唯一、感染者がノーマスクで近くで話すとN95でも安全とは言えない。

 

先に書いたように、この結果はオミクロン前の結果なので、オミクロン感染者が呼気から出すウイルス量が多いために3倍ぐらいの感染力になっていると仮定すると、現状では時間を1/3ぐらいに変換して考えるべきだろう。つまり、論文で不織布マスクをつけている2人が会話をすると20分でも感染リスクが10%あるのだから、オミクロンであれば10分でも危険と考えるべきだろう。こう考えると、今の保健所の濃厚接触者の判定で、マスクをしていれば15以内の会話は濃厚接触者にあたらないとする基準はオミクロンには適さないことがわかる。極端なことを言えば、感染している可能性のある人(疑感染者)を濃厚接触者として真剣にリストアップするのであれば、布マスクの感染者の近くを通ったひとや同じ部屋やエレベータに少しの時間でも居た人はみんな濃厚接触者として扱う必要がある。これまで効果があると思われていた不織布マスクの効果がそんなにないのだから、アクリルボードの仕切りに効果があるとは思えない。今のTV局の感染対策では感染が広がるのは避けられない。

 

心配なのは、医療関係者であっても、TVに映る看護師さんなどは未だに不織布マスクをしていることだ。医療や介護にかかわるひとは、今すぐにN95マスクに切り替えないと、ワクチン3回目の接種の加護があるとしても十分ではない。N95マスクは呼吸が苦しくなると言われているが、実際に使ってみたところ山本光学N95マスクはお椀型で見かけは悪くなるが、高性能不織布マスクを顔にぴったり当てたときより息がしやすい。DeltaPlusは、形状は普通のマスクに近いが少し息がしにくい。私としては長時間使えないほどは気にならないが。他にもN95マスクのブランドがあるが使ったことがないのでわからない。ちなみにN95はNIOSHの認定があるものを選ぶこと。