ワクチンと感染の広がり

感染症の専門家ではないので,話半分に読んでください.

 

(1)まず,コロナワクチンは変異ウィルスには効果がない,という説がありますが,現在のところ間違っています.日本で接種しているファイザー・モデルナのmRNAワクチンは,これまでのすべての変異ウィルスに元のウィルスと同程度の90%程度の効果があることがこれまでの接種の結果から証明されています.

 

イギリスなどで接種されているアストラゼネカのワクチンは,mRNAではなく,従来型のワクチンのため,確かに一部の変異ウィルスに対して効果が50%程度に下がるようですが,日本ではアストラゼネカは接種していないので関係ありません.日本が参考にすべきは,ファイザーを接種しているイスラエルです.また,ワクチン接種すると,免疫ができるまでウィルスを出すと思っている人がいますが,それは従来型のワクチンの場合で,mRNAワクチンではウィルスは出ません.コロナウィルスに対する免疫獲得につながるタンパク質の情報だけをワクチンにしているので,ウィルス全体が体内に注射されているわけではないからです.インフルエンザの不活性化ワクチンや生ワクチンとは違います.

 

各社のワクチンを人口より多く確保しておいて,安全で効果が高いワクチンを接種する政策をとったのは厚労省の先見の明によるお手柄です.菅総理が米国訪問のときにファイザーに直談判して,早期の納品を確保できたのも円滑な接種につながっています(実際,接種場所と接種者が足らないため,国内の倉庫に千万単位の大量のワクチンが冷凍保管されているらしい).

もちろん,この政策が取れたのは,日本国民が感染の爆発を抑え込んで,他の先進国がやむにやまれずワクチン接種を危険承知で進めて行って,その結果が出るのを日本がじっと見守る時間を稼ぐことができたことが要因になっています.

 

(2)次に,ワクチンを接種しても集団免疫を獲得するまで流行が続く,というのも正確ではありません.ファイザー・モデルナのワクチンは90~95%程度の発症予防効果があります.この発症予防効果とは,感染の恐れのある環境で本来感染したかもしれない人の90%は感染しないということです.つまり,200人いて,通常の環境で100人感染して,100人感染しなかったとします.このとき200人全員がワクチンを接種していると,感染したはずの100人のうち10人しか感染しないということです.実は,予防効果として言われる90%よりも実際に感染する人は少ないのです.この場合,200人のうち10人しか感染しないのですから.

 

もう一つ感染の広がりを把握するのに使われる数値に実効再生産数があります.この用語がわかりにくいので言い換えると「ひとりの感染者が感染させる人数」です.例えば,一人が1.3人に感染させると,最初の1人から1.3人→(1.3)^2→(1.3)^3→...→(1.3)^∞=発散と指数関数的に増えていきます.だいたい3世代で倍になりますので,30世代で1000倍以上になります.逆に実効再生産数が0.7であれば,0.7→0.7^2→...→(0.7)^∞=0に収束,ということで感染者がいなくなります.だいたい2世代で半減します.

 

これらを踏まえると,現在の実行再生産数が1.3(過去の感染拡大地域の中では結構高い数値)だとして,予防効果90%のワクチンをある日一斉に全員が打てば,単純計算で実行再生産数1.3を1.3×0.1=0.13にすることができます.これで収束します.実際は全員が予防接種できないので1/3の人が接種したとすると,予防効果を90%/3=30%と概算して,1.3×0.7=0.91と1以下になりますので,いずれ収束します.つまり,30%の人が接種するだけでも十分感染を収束させる効果があるわけです.集団免疫はほとんど感染が広がらない状況ですが,多少感染が発生しても収束すればよいという考えであれば,十分収束に向かうといえます.

 

まとめると,ワクチンは接種率が上がるにつれ,実効再生産数を押し下げるので,集団免疫獲得前であっても感染を収束に向かわせる効果がある.

 

(3)現在,高齢者の接種率が50%程度になっているので,これから重症率が下がっていくと期待できます.実際,重症者数は順調に減少しています.また,医療関係者への接種も進んでいますので,医療現場でのクラスターもかなり減少しています.これまで,高齢者の重症化率が高いことが分かっていますので,7月頃に高齢者のワクチン希望者への接種がおおむね終われば,重症者用の病床が占有されることがなくなります.若者も含めて,稀に重傷者が出るとは思いますが,たとえ感染しても重症化するひとが医療現場の許容量を超えなければ十分な手当をして回復させることができますので,コロナ自体の感染があちこちで偶発的に起きている状態であったとしても,社会生活上問題ないという状態になります.

 

分かりやすく言えば,特効薬がない時代のインフルエンザ程度の病気になるので,ある程度の社会活動を再開しても良いという状況になります.これが8月ぐらいでしょうか.10月ぐらいまでには,若年層までのワクチン接種が終わりますので,年末ぐらいには現在とは別世界となり,以前と同じような生活に戻っているでしょう.これは適当に言っているのではなく,世界に先行してワクチン接種を進めたイスラエルが現在まさにそうなっています.変異ウィルスの感染拡大も起きていません.変異ウィルスの感染拡大が起きているというイギリスでも1日ごとの国全体での死者がほぼゼロまたはごく少数です.ワクチンを接種していれば,たとえ感染したとしても重症化がかなり抑えられているということです.

 

(4)ワクチン接種の広がりにあわせて、電子接種証明の検討が進んでいます。ワクチン接種の記録を電子的にスマートフォン等に保存して、海外旅行の際に利用しようというものです。もちろん、アレルギー等でワクチンを打てない人への十分な配慮と対応は必要です。たとえば、アメリカではワクチン接種者は入国後3日間自主隔離で、PCR検査を受け、陰性なら自主隔離終了としています。ワクチン接種をしてない場合も、10日間の自主隔離(法的責任あり)で済みます。このような対応であれば、日本への入国者についても、円滑な受け入れができます。これであれば、潜伏期間への対応もできます。一方で、感染者に対しては、強制隔離といった強い対応が必要です。法的にOKかどうかわかりませんが、パスポートを隔離完了まで預かるぐらいの強制力がある制度にしないと逃亡する人が出るでしょう。特にオリンピックで入国するメディアの人間は自由に活動する気質の人が多いでしょうから。