この国では、ロンドンはさておき、そのほかの地域ではパブでソーシャライズするか、映画館でシネマを見るぐらいしかすることがないんですよね。

そのため、うちの職場の昼食時の話題は映画の話が中心になります。

ということで前回に続いて映画の話題になりますが、District 9 というエイリアンもののSF映画。これは本当に傑作です。素晴らしい映画です。映画の多くは、前提知識なしに観てもいいと思うのですが、この映画についてはこの映画の持っている社会的・政治的メッセージを映画館で理解するために、ベースになる背景を知っておいた方がいいように思います。

このSF映画の舞台は南アフリカヨハネスブルグ。監督は南アで育った29歳の新人監督ニール・ブロムカンプ。そして彼は彼の経験を踏まえて、SF映画を通して人種隔離政策アパルトヘイトを描いているのです。この映画のストーリーのモチーフは、南アのケープタウンで実際に行われた、第6区District 6というスラム化した黒人居住区の移転政策にあります。この映画では、180万人というエイリアンが居住するスラム化したDistrict 9を郊外に移転する設定に投影しています。

はじめは人間の側からこの映画を見ているわけですが、この映画を見ているうちに、徐々に人間の側からエビ"prawn"と呼ばれている宇宙人の側の視点に自分の視点が移っていくのに気が付きます。いつのまにか「人間はなんて酷いことをするんだ! "エビ"だって人間なんだ!」という矛盾に満ちたフレーズが頭の中に浮かんできます。そして、最後には"エビ"の子供が可愛いらしく見えてしまうから不思議です。

ねたバレになりますので、あまり詳しいストーリには触れませんが、とにかくこの映画のもつ強烈な社会的・政治的メッセージとSF映画としてのドキュメンタリータッチの映像シーンの作りの良さから考えて、この映画は間違いなく傑作といっていいと思います。

ダークホースだったため日本での公開は未定のようですが、全米での興行成績も絶好調ですので必ず日本でも公開されると思います。アカデミー賞の価値は十分あると思うのですが、ちょっと毛色が違いすぎるでしょうか。サプライズを期待したいです。